2020年06月18日
『サバゲにGO!2』のこと
アサウラ先生初のサバイバルゲーム小説の第2巻、『サバゲにGO!2 インドア戦と雨の日の屋外戦』(LINE文庫エッジ)を読んだ。
(※以下、若干のネタバレを含みます※)
アニメ絵の表紙と挿絵がある本作は、一般的には「ライトノベル」(ラノベ)というジャンルに振り分けられる(正確にはジャンルではなく出版形態のことだが、詳しい議論は省略)。
しかし、本作を「よくあるラノベ」と思い込んで読むと、期待外れになるだろう。
最近流行の「異世界転生」やファンタジーでもなく、異種族のキャラクターもいない。
主人公が特別活躍するわけでもなく、特殊な才能に目覚めるわけでもない。
とてつもない「どんでん返し」もなく、世界の存亡が左右されることもない。
ただ、主人公の青年がサバイバルゲームにはまっていく過程が描かれるだけである。
本作の最大の特徴は、そのリアリティーの出し方にある。
登場人物たちはもちろん架空だが、エアガンやサバゲーに関する部分は事実を基にしている……というより、事実がほぼそのまま書かれているといってもいい。
アサウラ先生の体験談が「余談」として文中に書かれていることがそれを表している。
登場するサバゲーフィールドやそこでのゲーム展開なども、大筋は架空であろうが、細かい部分では非常にリアルだ。
ここにも先生の実戦経験や他のサバゲーマーさんの戦いの様子が活かされているのだろう。
私自身も似たようなことがあったと思わされた場面も少なくない。
そうしてサバゲー経験者の目線で見ていくと、この小説のフィクションの部分というのはかなり少ないのではないか。
ほとんど「サバゲーあるある」だけで構築されたように読める。
本作で数少ないフィクション要素は舞白姉妹、そして「ファーストペンギンズ」こと「栗須姉妹」くらいではないだろうか。
つまり、ほんとのことばかり書いてある。
エアガン選びで悩む心情や、初めてのサバゲーでの緊張感、フィールドのわちゃわちゃ感など、「再現度が高い」なんてものではない。
まさに、サバゲーマーの日常がそこに「ある」のだ。
もはや小説の形をしたドキュメンタリーに近い。
余計な演出をしないことで、リアルに描くことの良さがさらに際立っている。
終盤の雨の中のゲームはさすがに少年漫画的でフィクション性が高いが、それは「こうも都合よくはいかない」という意味であり、そこで行われている戦術(例えば秋野麒麟のステルス戦法)などは実際に存在する。
それまでの描写がリアルであっただけに、すんなりと展開に入っていくことができ、いつの間にやら熱い戦いに魅せられてしまっていた。
本作のもうひとつの特徴は、多くの部分で複数の要素の重ね合わせ、「多層構造」が見られることである。
主人公の松井貞夫は普通の会社員だが、サバゲーマーの「サバ夫」でもある。
秋野麒麟は表向きはサバゲーマーとして出てくるが、売れない声優であり、人気の出ないVTuber「露草ときわ」でもある。
その露草ときわと並んで登場する彩まよいさんは、現実に存在するVTuberだ。
さらに本作では、坂崎ふれでぃ先生の漫画『サバゲっぱなし』のキャラたちが登場することで、小説でありながら漫画とも接点を持つ。
モブとして登場するサバゲーマーたちは、もちろん現実のサバゲーマー全員を反映している。
この私も、ひとりの読者であると同時に、ひとりのサバゲーマーだ。
そしてサバゲー未経験のあなたも、ひとりの読者であると同時に、未来のサバゲーマーなのである。
『サバゲにGO!』の世界は、すぐそこにある。
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lifeisgunfire at 18:00│Comments(0)│作品レビュー